「大好きだった東京、ありがとう、さようなら」:元ゴーストライターが原発震災移住体験を語る私小説「原発引っ越し」

「原発引っ越し」という不思議な題名のこの本は、神原将氏が2012年6月に出版した単行本です。歌手などの著名人のゴーストライターとして活動してきた神原氏が、3.11の福島原発事故によって家族とともに東京を離れる決意をし、広島県に引っ越した移住体験と新生活の様子を描いた私小説です。福島からの避難や移住は語られることはあっても、東京を含めた関東地方からの避難に関してはまだまだ多く知られていません。原発事故がいかに広範囲に影響を及ぼしているのか、改めて考えさせられる一冊です。

 

子ども世界ネットワークでは、著者に許可をいただき、移住と本の執筆に至った経緯を記した「世界の人々へのメッセージ」(英/日本語)と神原氏編集の移住者インタビュー集「移住者の声」からの短い文章(英/日本語), そして「原発引っ越し」英語版序章の一部をご本人撮影の写真ともにこちらで紹介したいと思います。序章英訳はクレイグ ホワイト氏によるものです。

多くの人が原発事故と移住について考えるきっかけになる事を願っています。

 

「原発引っ越し」ウェブサイト 

http://shou-kamihara.simdif.com/index.html

 

     

(WNSCR team)

 

世界の人たちへ

 僕はユアン・マクレガーが主演した「ゴーストライター」という映画で描かれているまさにそのゴーストライターを仕事にしています。本来は学者、著名人、俳優などの代わりに、ゴーストのように陰に隠れて、本を書くのが仕事です。しかし、東日本大震災が起きた3・11から、ゴーストではいられなくなりました。なぜなら、3・11のこと、とくに福島第一原子力発電所で起きた事故のことを本にしようとすると、誰も協力してくれないからです。

 

力会社は、30年、40年と長い時間をかけて、多額の寄付金やスポンサー料を払うことで、学者、著名人、俳優などが電力会社に不満を言えない環境を作っていたのです。
それでも僕は日本で起きたこと、福島で起きたこと、東京のパニックぶりを書いて残す必要がありました。誰も書かないのなら、自分がやるしかない。ゴーストのままではおられない。自分の姿を現して本を出すことに決めました。

 

僕はこの本を福島原発事故が起きた2011年9月から書き始め、2012年3月で筆を置きました。そしてすぐに自費出版したのです。この本は国内の大手出版社、何社かと話をすすめていました。編集部はこの本を支持してくれ、出版にも乗り気でした。しかし、営業部の人はまるで逆でした。


「神原さんの書いた、放射能を恐れて東京から逃げ出す、という内容はいけません。そんな本を出版してしまえば、雑誌に広告を出しているスポンサーの怒りに触れ、スポンサーが会社にお金を出してくれなくなるかもしれない。神原さんの本を出すメリットよりも、スポンサーがいなくなるデメリットのほうが大きい。こんな内容の本は出せません」


スポンサーというのは東京を拠点とする、不動産会社、旅行代理店、ホテル、鉄道会社、ディズニーランドなどが名前として挙げられていました。確かに、どの企業も東京に価値をおいて事業をしているので、東京が放射能汚染されたということを本に書かれてしまうのは避けたいのでしょう。


いくつかの出版社で同じように拒否されました。どの出版社も10年以上仕事の付き合いがある、僕とは親しい会社です。その出版社の判断に、とても失望しました。しかし東日本大震災が起きた3・11のこと、続く福島第一発電所の原発事故のことを、偽ることなく、真実をすべて記録として本にして出版しなければいけないと思いました。なぜなら、日本のマスコミはテレビも新聞も、本当のことをまったく知らせなかったからです。


「ただちに避難する状況ではない」「ただちに健康に影響はない」「放射能汚染された野菜も肉も食べても健康に影響はない」「放射能汚染された建物の残骸を、日本全国に運んで(生活ごみを燃やす)焼却炉で燃やそう。それが日本人の絆だ」


このように国民を守るどころか、電力会社の責任を曖昧にして擁護し、放射能の健康被害も過小評価、さらに国民が被曝しても平気という対応が一年半たった今でも続いているのです。体の弱い年寄り、幼い子ども、妊婦、すべてが電力会社を守るため、政治家の票集めのために捨てられているのです。その証拠に福島第一原子力発電所では、事故の収束にあたった作業員が1年6ヶ月の間に4~5人突然死していますが、放射能との関係はないとし、電力会社へは警察の捜査すらありません。


このような状況ですから、なおさら、本の出版を諦めるわけにはいきませんでした。

 

 

桜の木の下の母と子どもたち(写真:神原将)

このため、この本は日本では自費出版と呼ばれる、著者が自分でお金を出して出版する方法をとりました。これなら誰に文句を言われることもありません。しかし、金銭的な負担は重く、またプロモーションをかける費用も場所もないので、人から人へ、ツイッターを使って口コミで宣伝をしたのです。


このようにして出版しましたが、未だに日本の社会では「放射能汚染を怖がる人は頭が異常だ」というレッテルをはってごまかしています。インターネットを使って海外の専門家の情報を得られる人、チェルノブイリなどのデータを検証できる人たちと繋がれる人たち以外は、テレビと新聞の情報しかないために、どちらかと言えば「安全、安心の情報に頼りたい」という心理が働いていて、命や健康を守るための正しい判断ができないのです。これは経済の中心である東京が顕著です。そんな東京も汚染がひどく、土壌汚染で言えば、1万ベクレルから10万ベクレルまで、学校の校庭や家庭の庭先、駅前などからふつうに見つかっています。

どうかこの本を読んだ世界のみなさんが、日本に向けて声を出してください。弱い老人を、子どもを、妊婦を守って欲しいと言ってください。世界の人たちが行動を起こしてくれない限り、日本人は放射能汚染に気がつかないふりをして、このまま生活を続けていくでしょう。東京から西へ、できれば海外へ逃げて欲しいとメッセージをください。

この本は、序章(第一章)の部分はフリーで公開したいと思っています。ブログにまるごと掲載しても、引用して本の紹介をしていただいてもかまいません。とにかく日本で、東京で起きていることを、広く知って欲しいと思っているのです。世界の新聞がテレビがラジオが、そして出版社がこの本に気づいてくれて、そして広い地域にこの本が渡っていってくれるとうれしいです。その結果、日本政府が対応を改めて、国民の命と健康を守ることを優先し、被曝を不安に思っている弱い立場の人たちが、不安のない土地に逃げて行けるようになればうれしいです。

僕は日本語しか使えないので、この本は友人に紹介してもらい、ホワイトさんに翻訳してもらいました。まったく知らない関係でしたが、本の内容に共感していただいて作業が進みました。本当に感謝しています。

2012.9.13
引っ越しをした広島県呉市の家のベランダにて

 

神原将

神原将編集「移住者の声 HOME」(VOL.5) より「あなたが語ってくれたこと」を読む

Enslish version of this message is here.

Write a comment

Comments: 0